長寿命設計:次世代の衛星を支える
5 10月 2026 | 技術
現在では、数十基の衛星を載せたロケットが打ち上げられています。数分後、衛星は精密に計算された軌道に投入されます。ロケットは地球に戻り、次の打ち上げに向けて準備されます。
再利用型ロケットの登場と打ち上げ回数の増加によって、軌道への到達はもはや当たり前のことになりました。しかし、宇宙で周回を続けるには、ミッションの全期間にわたって確実に動作する電子機器が欠かせません。
ロケット革命がもたらした変化
十年前、1 キログラム (リンゴ約 6 個分の重さ) のハードウェアを軌道に打ち上げるには、少なくとも 1 万ドルかかっていました。2025 年までには、この金額は 1 キログラムあたり数千ドルにまで大幅に下がっています。2030 年までには、さらにこの金額は下がると予測されています。
「宇宙の新しい時代は、スピードが速く、革新的で、夢を持つ人であふれています。ミッションは複雑化し、インフラを重視したものとなり、ロケットの再使用によってこれまで以上に低コストになっています」と、月着陸船の設計エンジニアで、航空宇宙科学のコミュニケーターでもある Lauren Savage は述べています。
かつては科学的なミッションのためや大手の事業者に限られていた宇宙へのアクセスが、今ではスタートアップ企業や大学、小規模な研究機関にも広がっています。
打ち上げ回数や軌道上の衛星数が増えることで、これまで以上に多くの貴重な衛星データを利用できるようになります。地球観測衛星は、海水温、氷の厚さ、土壌の組成、大気中のガスを追跡し、山火事や火山活動をリアルタイムで監視しています。
こうしたミッションが増えるにつれて、各衛星に搭載される電子機器に求められる条件も、同じように大きく変わってきました。
「数年前までは、市場に出回る製品の種類が少なく、エンジニアが直面する課題も、電力要件の高まりに伴うものが中心でした」と、TI の宇宙向け電源製品ライン マネージャーである Javier Valle は述べています。「しかし、宇宙向けハードウェアが新たな時代を迎えた今、衛星の電力分配システム全体で、より小型、高速、高効率なデバイスが求められています。」
同じ大きさ、またはより小さな衛星で、より多くの機能を実現
従来の衛星は、センサでデータを収集し、そのデータを地球に送り返して処理していました。現在の衛星では、レイテンシを低減するために軌道上でデータを処理するため、より高い演算能力が必要になります。その結果、衛星のペイロード電力はここ数年で数百ワットから数キロワットへと増加しており、近い将来には数十キロワットを必要とする用途も想定されています。しかし、衛星の電力が増えるにつれて、電流や温度のセンシング、故障検出も、設計上の課題になってきます。
その一方で、衛星の大きさは変わらないか、むしろ小さくなっています。そのため、電力の増加が課題になります。処理能力を上げるにはより多くの電力が必要で、電力が増えればそれだけ発熱も増えます。宇宙の真空環境では、衛星から熱を逃がすことが困難です。そのためエンジニアには、電力密度が高く、効率の高いコンバータが必要です。では、どうすればよいのでしょうか?
エンジニアは、シリコン FET の代わりに窒化ガリウム (GaN) FET を採用し始めています。GaN は、シリコンよりも高いスイッチング周波数で動作でき、効率も高くなります。効率が高くなれば、熱の課題を軽減できます。
衛星が扱う大量のデータにも同様の課題があり。衛星自体のテレメトリ データでも、超高速で処理して送信しなければならないデータでも、TI の半導体なら対応できます:
- 電力コンバータは、太陽電池パネルの出力から大電流を必要とするペイロードに至るまで、衛星全体へ効率的に電力を分配します。
- シグナル チェーン デバイスは、衛星内でデータを伝送するとともに、アナログの測定値をプロセッサで処理可能なデジタル データへ変換します。
- 組込みプロセッサは、衛星全体のペイロード処理、モータ制御、監視を担います。
TI の半導体を使用しないと、宇宙に関する私たちが把握している知識はほとんど実現できません。事実、地球周回軌道に投入した最初の IC は 1963 年のものでした。 それから 60 年以上が経過した現在、TI は、人間を月に乗せるための支援から、現在のロケット革新の推進に至るまで、宇宙探査分野での実績を確立しました。
2025 年だけでも、200 回を超えるロケット打ち上げに、これらの TI 製半導体が搭載されました。
「当社の宇宙向け製品のポートフォリオは幅広く、今も拡大を続けています。衛星のほぼすべての部分をサポートし、あらゆる種類のミッションの要件を満たすことができます」と Javier は話します。
放射線を考慮した設計
衛星に必要な電気的機能を実現するよう設計することは、要件の一つにすぎません。もう一つの要件は、ミッション期間を通じて確実に動作し続けることです。衛星がどれだけ長く運用を続けられるかは、放射線で決まることもあります。
宇宙では、ミッション期間中に蓄積する劣化や、重イオンや太陽活動によって引き起こされる突発的な事象により、放射線が電子機器の性能に影響を与えることがあります。
「この過酷な環境で半導体が耐えられるかどうかは、衛星の健全性とミッションの成功にとって非常に重要です」と Lauren は述べています。
放射線に強い電子機器を実現するには、IC パッケージ内の能動部分であるダイのレベルから設計する必要があります。このような放射線環境で適切な性能を発揮するダイを設計し、製造するには、特別な部品と設計手法が必要です。
TI では、二種類の宇宙向け製品を開発しています。一つは、より高い放射線性能基準を満たす耐放射線強化製品で、長期ミッション、静止軌道、深宇宙ミッション向けです。もう一つは、より低い放射線性能基準を満たす放射線耐性製品で、低地球軌道での短期ミッション向けです。
「当社はお客様と連携し、最新の課題に対応するソリューションを提供するとともに、幅広いミッションクラスの信頼性要件に応えています」と Javier は述べています。
今後の予想される発展は?
地球に戻っていったあのロケットを覚えていますか?ロケットが投入した衛星は、何年か前には不可能だったことをこれから実現できます。
そして、こうした衛星の進歩は、その恩恵が私たちの生活にどれほど自然に溶け込んでいるかに表れています。最寄りの基地局から数百マイル離れた場所にいるハイカーでも、通信衛星のおかげで電話をかけられます。地球観測衛星によって、科学者は自然現象をこれまで以上に深く理解できるようになっています。こうしたことはすべて、宇宙で動作する最先端の電子機器なしには実現できません。